ラファエロ展



ルネッサンスにはまりたてのころは、とにかく色んな画家を知るのに夢中で、母が与えてくれた西洋絵画の本で、好きな絵を見つけてはうっとりとしていました。母は小さい私にも絵を好きになってもらえるようにと、盛期ルネッサンスの巨匠たちを分かりやすく解説してくれて。画家の性格や絵の特徴なども丁寧に説明してくれ、個性ゆたかな3大巨匠の話を聞くのが毎日の楽しみでした。「ダ・ヴィンチはね、左利きだったから鏡文字を書いてたのよ。鏡に映さないと読めないなんて、面白いね」「人がたくさん書かれているけど、1人だけこちらを向いているでしょう。これがラファエロなのよ」「ミケランジェロの作ったダヴィデ像ね、目の中がハートなのよ」と、たくさんの話を聞かせてくれました。

「誰が一番好きなの?」と聞かれれば(美しく微笑む女の人や、かわいらしい天使が描いてあるという理由で)一番好きなのはラファエロで、次に好きなのはダヴィンチ、と答えていました。ミケランジェロの崇高な精神や感情的な表現の素晴らしさはまだその頃は分かっていませんでした。「とりえず、胸をつけとけば女だろう」といった感じで筋肉隆々の女の人を描いている、とても変わった画家、と言う認識で。

それから随分と色々な絵を見て、好きになった画家はたくさんいたけれど、ルーブルでラファエロの絵を見つけたときは、やはり嬉しく懐かしい気持ちになったし、ローマのパンテオンに行ったときも、そこで眠るラファエロを思って、込みあげてくるものがありました。ずっと昔から知っている、優しいお兄さんのような。

でも、今回のラファエロ展では、あのころのような温かい気持ちをラファエロに感じることができなかった。

なんでだろう、とずっと考えていました。
今回の展示では(企画の趣旨がそうだったのかもしれないけど)ラファエロがほとんどペルジーノの作品を模倣した絵や、ラファエロかペルジーノかで見分けがつかないとされていた作品があって、「ラファエロが描かなくても、誰かが描くことができるかもしれない絵」があるんだ…と現実を見せられたような気がして、なんだかがっかりしたのでした。もちろん、ラファエロの生涯をたどる展示会なので、初期の絵や、影響を受けて変化をしていく作品があるのは当然なのですが、もう少し技術的なことばかりではなくて、ラファエロの人間的な魅力というか、生涯にスポットを当てた企画をしてもらいたかったなと思いました。
ラファエロの描く聖母が魅力的なのは、愛する人がモデルだったからだし、ヴァザーリも「ラファエロが若くして亡くなったことについて、過度の女好きが一因」と言っているように、そうした作品におけるラファエロと恋人との関係を掘り下げたり、またラファエロが師匠ペルジーノとの師弟関係の中でどう成長していったのか…とか、もっと身近に感じられるようなことも絡めれば、一般のお客様も楽しめたんじゃないかと思いました。
あとは、礼儀正しい貴公子で、誰からも愛され大事にされ、落ち着いて知的な振る舞いからパトロンからの受けもよく…と若くして成功をつかんだ素晴らしい性格ですよとだけ説明しても、誰もが「ふーん」としか思わないんじゃないかと思います。たぶん、自分とは違いすぎて、現実感がないんです。現実感が必要かと言われたら、そうでもないかもしれないけど、でもラファエロは、もっとたくさんの葛藤とかあったと思うし、そういうのも見たかったなと思います。
夭折の天才と言えば、ゴッホもラファエロと同じく37歳で亡くなっていますが、ゴッホの作品が取り上げられるときは、その人生や精神的な部分についての解説とセットになっています。ゴッホの作品は、ゴッホの内面的な部分があってこそ。
ラファエロだって、ゴッホのような波瀾万丈の人生ではなかったにしろ、最盛期のルネッサンスを、ただ成功者として穏やかに生きていたわけではないと思う。私はラファエロを専門的に扱っている文献を読んだことはないけれど、今回の展示で、そういったことが少しでも知れるかもしれないと期待していたところがあったので…。
今回の展示は「ラファエロ展のために、世界の美術館からたくさんの作品を集めてきたよ!」「すごい!こんなに集めたんだ!」だけで終わってしまっているような気がして残念でした。教科書を読んでいるみたいな気持ちになりました。

あと、ラファエロは聖母の画家なのだから、レプリカでいいから聖母の絵画をずらっと並べて解説とかしてくれたら楽しいのに!と思いました。せっかくの大規模な展示会だし、本物に触れることはすごくいいことだとは思うけど、時代背景とか画家自身を深く知ることができないのはもったいない。

あ、もしかしたら図録とかでそういったところが補完されてるのかな。
それか、混み合ってて早足に進んでしまったところとかで色んな解説があったのかな。
だったらちょっとへこみます。

だけどやっぱりラファエロは素晴らしく、ラファエロの描く聖母も大好きです。
今日はラファエロに関する本をたくさん読んで寝ようと思います。




ロダンさんとお会いするの、今月2回目。



ラファエロ展

国立西洋美術館

LOVE展♥アートにみる愛のかたち









森美術館10週年記念で開催されているLOVE展に行ってきました。

この写真では伝わらならないけど、鏡張りの真っ暗な部屋に配置されたこのオブジェは、絶え間なく色が変化しています。写真は世界が認めた前衛芸術家、草間彌生の体験型アート、「愛が呼んでいる」。それに、ここでは草間彌生さんが朗読する詩がBGMのように流れているんです。あの草間彌生さんの独特の話し方で、ついたり消えたりしながら詠まれる詩は、オブジェの色の変化とも相まって、とても心地が良い。スピーカーは随所に配置されているようで、右から聞こえたと思ったら後ろから、左下から聞こえたと思ったらつぎは頭上から。(ただ、聞き取れないんです。)

前にNHKで特集が組まれていたドキュメンタリーを見たときも、彼女の純粋だけど、向上心のある精神に惹きこまれました。草間彌生さんの作品には、なんというか。ぐっと心が掴まれますし、「草間彌生」と名前を聞くだけで、気持ちが高揚するような感じもあります。


そういえば秋にパリに行ったときは、ルイ・ヴィトンと草間彌生さんがコラボレーションをしていた時期で、パリの一番の繁華街は草間彌生さんカラーに染められていたのでした。








行き交う方々を見つめる草間彌生さん。
何を思ったのでしょうか。

LOVE展は、「愛」をテーマにロダンの彫刻から現代絵画、報道写真、浄瑠璃や、それこそ草間彌生さんのような体感型アートまで200点もの作品が展示されています。

書きたい名前も多いけれど、一番心が揺さぶられたのは、初めてお目にかかる「折元立身」さんの作品たちでした。 折元立身さんはアルツハイマーとを患った94歳のお母様をパフォーマンス・アートとし作品にされています。 初見で涙が出そうになり、すぐ近くのグロテスクな作品(ごめんなさい)を見に行って気持ちを落ち着かせました。 折元立身さんの作品は、頭部をフランスパンにしてポースを取ってみたり、ベートーヴェンの運命(あの、ジャジャジャジャーンっていう旋律)に合わせて、お母様の頭をもじゃもじゃ掻きむしってみたりと、 「?」 となってしまう作品が多いです。(すみません)
でも、折元立身さんがお母様をとても愛しているということと、またお母様からも折元立身さんを愛していることが、痛いほど表現されています。

内面には失うことへの恐怖が含まれていて、だからこんなにも心を揺さぶられるんじゃないかな。折元立身さんは、お母様との思い出をずっと残しておきたいんじゃないかな。どんな気持ちで作品を作っているんだろうと気になって、ネットを探して見たらインタビューが載っていました。


LOVE展、とてもよかったです。


LOVE展を見たあとは、時間もあったのでひとり、スカイデッキにも登ってみました。
こうしてビュービュー風に吹かれてるのってすごい気持ちがいい!
私と警備員さん以外、誰も人がいませんでした。
都会のど真ん中で、人がいないって何よりの贅沢ですね。




LOVE展♥アートにみる愛のかたち

森美術館