ヴァロットン展


気付いたらこのブログ、1年以上更新していませんでした。
自分でもびっくり。何気なくアクセス解析を見たら、
検索:ガンダムUCで来てくださっている方が非常に多く、震え上がりました。
自分のブログでガノタ人口の多さを実感させられる日が来るとは。

1年更新していない間に、
ニューヨークに行ったりパリに行ったりしていました。
去年、国立美術館でもみた貴婦人と一角獣のタペストリー
実際のクリニュー中世美術館でも見ることができたので、またブログ書いていけたらいいな、と。



ヴァロットン展と攻殻原画展に行ってきました。
最近の中でナンバーワン画家でした!(知らない画家だったのでなおさら)
本当に行ってよかった。
ヴァロットンは、女性と妻の家族に対して恨みがあるのかと思うくらいねじれてる絵を描くところが面白かったです。
初期から晩年までの自画像の技術の高さに相反してけっこう醜め?に描かれる女性像。いや醜いっていうのは違うかも。
ぶっちゃけ言うと、ヴァロットンの描く女性って怖いんですよ。



視線が定まってなくて怖い。


表情とポーズ、何もかもが怖い。(たぶん妻)


なんか良く見たら女性の皮膚がどことなくどす黒いんですよね。
このあとヴァロットンと同じ時代に活躍した画家達の展示もあったんですけど、
そこの絵を見て「生きてる!」と軽く衝撃を受けました。
肌の透明感と光彩で、女性をどう捉えているかわかるなぁと。


ヴァロットン、自画像含め男性は正面から描かれるのに対し、
女性は後ろ姿(しかもただならぬ陰鬱さ)を好んで描いているところからも、
女性に対して並々ならぬ負の感情を抱いているようでした。
もうこうの時点で疑惑と興味が出てきますよね、この人の人生に何があったんだろうって。


顔が塗りつぶされているかのような女性と、


ホラーなオーラ全開の後ろ姿の女性。
一言で言うとまじ怖い。


ドミニク・アングル「トルコ風呂」

また話は変わりますが、ヴァロットンはアングルの「トルコ風呂」を見て
感動のあまり涙まで流し、多大な影響を受けたそうです。
うん、アングルの背中・お尻ってすっごく綺麗だもんね。
これ以上裸体をなめらかに表現できる人はいないんじゃないかって、いつ見てもうっとりします。


ヴァロットン「臀部の習作」

はい。
にも関わらず、こんな怖すぎる尻を描いちゃう理由は一体。
一緒に行った友人も「こんな怖い尻の絵はじめて見た」と驚愕していて、この尻の絵の存在感ったらなかったです。
行ってない人は素通りなんかせず、ぜひこの尻の絵を見て欲しいです。


世界一怖い尻の絵。

少なからず女性に幻想を抱く画家が多い中で、
「今、ハイパーリアリズム追求中だから」とシンプルな理由でこの尻を描くヴァロットン。
「女性って所詮ただ肉塊でしょ」みたいな様子が伺えて大変興味深かったです。




「赤い絨毯に横たわる裸婦」


でも女性の後ろ姿を好んで描いたことと言い、(怖いけど)尻の絵も多数あったことと言いかなりのおしりフェチの人だったんでしょうね。特に「赤い絨毯に横たわる裸婦」は「見よ、これが俺の理想とする尻だ」みたいな気迫があって好きでした。これはくびれからお尻にかけてのボリューム感のあるラインはもちろん、手先足先から漂う色気が素敵、ポーズも。





あとは不仲だったという妻の実家の様子を描いた作品が露骨すぎてイチイチ笑えました。
上の絵は妻の実家の人達を描いた絵なんですよね。(ポーカーをしているところ)
あぁ、もうこの決定的な距離感(笑)
そしてあえてと思われる壁の線の歪み。(気になる!)
ポーカーに参加していないヴァロットンが哀れに思えてきます。
とても妻の実家とは思えない。他人レベル。

妻の実家がヴァロットンの大パトロンだったというのにこんな扱いでよかったのか。

自画像や男性像・ハイパーリアリズム期であれだけの技術力を発揮しながらこれを描いたという力の使いドコロが好感を持てました。素直にもほどがある。



あとこれは家族の食事風景なんですよね。不穏すぎる。
そもそもヴァロットン自体が後ろ姿なのがなんかもう…



この少女(妻の連れ子)に目が行きがちだと思うんですけど



ここにもいますからね怖い人。目!パン!手!怖すぎる。



何らかの理由があって女性、そして妻の実家の描き方があんなにこじれちゃってるけど、
ヴァロットン、それがズバ抜けた構図力を持って作品を完成させてるのがすごいと思いました。
妻の実家の人達の絵だって、構図だけであの他人感を演出してるんだもんね。すごい。
木版画もかなりの枚数展示してあったけど、構図の素晴らしさが目立ってました。

友人曰く「事象を単純化する力もすごい」と。


(木版画ではないですが)リアリティのある人物像を描いた上での背景のベタ塗りも構図がすごくシンプルでおしゃれだと感じたし、計算された美を感じました。初期から晩年を通してどの作品も構図の面白さ、見応えありました。




「竜を退治するペルセウス」


後期の作風はもうほとんどシュルレアリスムになってました。

「あえて古代神話に挑戦することで画壇に反旗を翻した」みたいにかっこよく解説に書かれてましたけど、良く見てください。
これ竜ですからね。
ワニじゃないですからね。


ワニの面影を多分に残す竜

そしてここでも強調される(私の視点がもうそこにしか行かないからかもしれませんが)ペルセウスの尻が、なんかもう…

たぶんヴァロットンは竜を竜らしく描こうとか、ペルセウスを英雄らしく描こうとか、アンドロメダを神秘化して美しく描こうとか全くなかったんでしょうね。
男女の葛藤を表現した作品らしいですから。


でもこんな現実的なアンドロメダはじめて見ました(笑)

ちょっとアンドロメダが気になったので…
他の作家のアンドロメダを取り上げますと…


エドワード・ポインター「アンドロメダ」




ギュスターヴ・モロー「ペルセウスとアンドロメダ」

やっぱり大好きなモロー。麗しいですね。
モローの描くアンドロメダは理想の女性そのものです。


ギュスターヴ・ドレ「アンドロメダ」


ルーベンス「ペルセウスとアンドロメダ」


フランソワ・ルモワーヌ「ペルセウスとアンドロメダ」

以下アンドロメダwikiより。

"アンドロメダーは母カッシオペイアがその美貌が神に勝ると豪語したことから、怒った神々によって怪物(化け鯨)の生け贄とさせられようとして、波の打ち寄せる岩に鎖で縛りつけられた。そこを、ゴルゴーンの三姉妹の一人、メドゥーサを退治してその首級を携えてきたペルセウスが通りかかった。ペルセウスは、怪物にメデューサの首を見せて石にし、アンドロメダーを救出した。アンドロメダーは後にペルセウスの妻となった。その後、アテーナーが星座として天に召し上げた。"


ヴァロットンのアンドロメダ。

他の古代神話の絵も、おお!?とちょっとテンションが上がるくらいゲスくてよかったですよ!!こんな下卑た顔した神様見たことない。

でも時代が彼に追いついてなくて酷評されまくったというからそれには少し同情しましたが…。シュルレアリスム全盛期に活躍していれば、もっともっと面白い作品を残しただろうに。(もっと見たかった)

ヴァロットン、作品も画家個人も好きになりました。
余談になりますが私、一人で美術館に行くことが好きなので普段は大体一人で行くのですが、今回は(密かに尊敬する)絵を描く友人が誘ってくれたので、独特の解説と小噺を聴きながらの美術館巡りだったので楽しいことこの上なかったです。

アートを堪能しつくせた一日、もう最高の盆休みでした。

最後に、
安定のヴァロットンのイケメン自画像。








ヴァロットン展
〜2014.9.23
三菱一号館美術館